20代で人生の年収は9割決まる

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よりよいキャリアとその価値とは

本書は、人生を長期的に見据えたキャリアの考え方について解説しています。タイトルでは、効率的なお金の稼ぎ方がテーマであるような印象を受けますが、よりよいキャリアを形成していくための働き方や職業の選び方がメインテーマになっています。自分自身を資産と考えて、不確実性の時代にどのように資産価値を高めていくべきなのかをかなり具体的に説明しています。
人工知能を念頭に、テクノロジーの進化は急速なものになっており、仕事が無くなることへの懸念が世界的に高まっている状況が続いています。そのような中で、著者は、仕事が自分を高めていく道具、自分の周囲を豊かにしていく道具になると言い、ただ生活していくために働く価値観が古くなる可能性を示しています。20代の過ごし方がテーマでありながら、他の年代での働き方も含めたキャリアの考え方が示されているため、単なるテクニックや短期的な視野にとどまらない意見が散りばめられており、キャリアに悩んでいる社会人、就活生には、参考となる部分が多いでしょう。
構成は、序章と、第1章から第5章までの6つの章立てとなっており、序章では、20代が仕込みの時期である理由について、年齢がマイルストーンになることや会社のカルチャーと自分が適合することの重要性、マネーリテラシーを高めることの意義などいくつかのポイントから紹介しています。
第1章では、20代からのキャリアについてのルートマップが紹介されており、基本的な方針が示されています。最初に、20代前半の基礎的な部分の形成、20代後半の一生食べていける四つの条件を揃えるためにどうするべきか、20代後半から30代まででは、社内のポジションではなく、具体的な功績、業績を狙う必要性、30代前半までに転職をしておくべき理由など、全体的にハウツー的な内容が多い印象を受けます。
第2章は、会社の選び方が主題で、自分がどのようなキャリアを作り上げたいかというポイントから、どのような評価軸で判断するべきかがわかります。
第3章は、20代前半のより詳しい指針が語られており、若さが持つメリットや若さをどのように活かすべきかが解説されています。一般的なイメージとは違った視点からの意見が比較的多く、納得できれば、実践したくなるような項目があります。
第4章では、自分の強みを育てるためのやり方などが紹介されています。一般的に言われていることも少なくありませんが、ある程度働き始めたら、多くの人が共感できるような内容が揃っていると思います。
第5章では、30代になり、脂がのり始める時期に、会社という枠組みに囚われずに、自分を売り出すためのポイントが書かれています。転職のパターンを整理して、より納得のいく転職を行うための準備ができる内容がまとめられています。本格的な経営のために必要な判断基準が示されています。
本書の特徴として挙げられることは、やはり人生を俯瞰的に捉えたキャリアの戦略が具体的に示されていることです。ノウハウ的な内容も多いですが、そもそもの価値観、考え方といった重要な土台をしっかりと解説していることは、評価できると思います。また、精神論ではなく、根拠のない理想論でもない、地に足のついた現実的で実践的なノウハウがまとめられていることもよいと感じます。もちろん、自分自身に当てはめて考えるときには、より幅広い視点が必要でしょう。しかし、地道な積み重ねの強さや表面的でない考え方の重要性を改めて認識するきっかけになると思います。
全体的な内容としては、キャリアを考える人に参考となる本になっています。ルートマップを示しているため、実践的でもあり、良い内容になっていますが、構成があまり整理されていない印象も受けます。必要な項目をざっくりとした分類でまとめているため、少し雑多で、自分ごととして落とし込むまでが少し難しいとも感じます。しかし、仕事や自分のあるべき姿を考える方にはおすすめできます。

土井 英司 (著)
出版社 : 大和書房 (2010/12/18)、出典:出版社HP

この本は、20代のための仕事の本ではありません。
この本は、20代から始める「自分という資産のつくり方」です。
なぜならそれこそが、一生食べていける方法だから。
なぜならそれこそが、
不確実時代のキャリアのつくり方に他ならないからです。

はじめに

不確実時代のシビアでリアルな方法論

「仕事をなくしたやつが偉い」
アマゾンではこれが常識でした。
この話をすると、「GAFAはアルゴリズムを駆使しているからね」「最先端の企業の例を出されても、自分とは関係ない」といった反応があるのですが、これは今から二〇年も前の二〇〇〇年、僕がアマゾンで働き出した頃の話です。
はじめまして。土井英司と申します。
僕は、新卒でゲーム会社に就職し、その後、異業種で修行、転職を経て、アマゾンの日本サイト立ち上げに参画しました。エディター、パイヤーとして複数のベストセラーを仕掛け、二七歳で社長賞にあたる「カンパニーアワード」も受賞しました。三〇歳でそれまでに培った「自分という資産」を活かして出版プロデューサーとして独立。国内一六〇万部、世界一一00万部を突破した『人生がときめく片づけの魔法」のこんまりこと近藤麻理恵さんをはじめ、多くの著者のブランド支援やプロデュースを行っています。
さらにここ数年は、ニューヨークを皮切りに、山口、大阪、長崎と都内との二拠点生活を実践。新たな著者の発掘や、地元の方と組んで地域活性化のお手伝いもしています。
今は不確実時代と言われています。アメリカで生まれたVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)という言葉が日本でも使われるようになり、先行きが不透明なことも、不安を募らせる一因となっているようです。
「AIで仕事がなくなる」
「この業種は一〇年以内に消滅するのではないか」
そんな不安がふくれ上がったのは、英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が二〇一三年に発表した「未来の雇用」についてのレポートがきっかけでしょう。自動化やロボットの導入で、ホワイトカラーですら無用になる。現在ある半分の仕事が消滅する……。この指摘に、多くの人が危機感を感じたようです。
しかしアマゾンは二〇年も前から、「単純作業は機械にやらせよう。いや、単純作業以外でも、なくせる仕事はなくしてしまえばいい」という考え方でした。
それはひとえに、人間という有限で貴重な資源”を最大限に有効活用するためです。
アマゾンで僕が”なくした仕事”は、いくつかあります。ひとつはマーケティングのためのターゲティングメールの送り方を自動選定するツールをつくり、個別に選定するという業務をなくしたこと(作成の実作業は優秀な同僚にやってもらいました)。もうひとつは、顧客へのシステム説明でした。
顧客へのシステム説明とは、コールセンターで対応しきれない在庫状況の問い合わせについて、メールで個別説明するというもの。バイヤーになってすぐにやった仕事でした。人によってはわかりやすい説明をしようと工夫し、繰り返すごとに精度を高め、「自分は仕事を頑張っている!」となるでしょう。
「顧客対応は君に任せていれば安心だ。説明が実にうまい」という上司のフィードバックに手応えを感じ、「君がいないと、この仕事は成り立たないね」という同僚の言葉に自己肯定感を高め、システム説明の達人。になるかもしれません。ところが僕は幸か不幸か、そういうタイプではありませんでした。
なぜならシステムについての込み入った問い合わせといっても、明らかに同じような内容のものが数多くあったからです。「同じ説明を繰り返すのは時間と労力のムダだ」と考えていました。
そこで僕は「このパターンの問い合わせにはこう答える」という緻密なマニュアルを作成し、コールセンターに渡して彼らの段階ですべて対応してもらえるようにしました。

幸いなことに僕の提案はうまくいき、以後の問い合わせはゼロにして、相当なコスト削減につながりましたが、僕自身の仕事もなくなった――いや、自らなくしてしまいました。しかし、この小さな改善が、その後のキャリアをいっそう広げてくれたのです。
「マニュアルで対応できるような仕事を一生懸命やるのは、人的資源の無駄遣い」
こう考えるのがアマゾン。高い給料を払っている社員に、その気になれば省けるような仕事をさせておくのは、会社にとって明らかなロスです。そのロスを自発的になくす社員を、アマゾンは「評価に値する人材」と見なします。僕はアマゾンでエディター、バイヤーとしてキャリアを積みましたが、それは自分という人的資源をより活用し、会社にも貢献できる双方ハッピーな働き方でした。
僕のエピソードはずいぶん昔のささやかなものですが、この不確実な時代には、あらゆる人のキャリアに同じことが当てはまるのではないかと感じています。
今後は、「今ある仕事」に自分を合わせるのではなく、人的資源―すなわち「自分という資産」をどの仕事で運用するかを考える時代になっていく。僕はそう分析しています。[仕事>自分」ではなく[自分V仕事」に逆転するのですから、どんどん仕事が消滅しようと関係ありません。確固たる自分さえあれば、今の仕事がなくなったとしても、より良い仕事、まだ見ぬ新しい仕事にスイッチすればいいだけの話です。
これまでは、仕事と自分を一体化させている人がたくさんいました。
「今の仕事がなくなったらどうしよう」とか「これから就職・転職するならAIによって消滅しない仕事を選びたい」という人は、[仕事=自分」もしくは[仕事>自分」になっているということです。
しかしよく考えてみれば、本来は「自分仕事」であるはずです。それなら別に、ひとつの仕事にこだわる必要はない。比喩的に言えば、今後仕事は”道具”になっていくのです。
それを使いこなすことによって、自分を豊かにする道具。

それを使いこなすことによって、何かと便利になる道具。
それを使いこなすことによって、誰かの役に立つ道具。
仕事とは、そんなものではないでしょうか?
どんな道具でも使いこなせるようになる最良の策は、自分という資産を充実させることだと僕は思います。そうすれば仕事は永遠になくならないし、より面白く、より自分にふさわしい仕事が選べるようになります。
「『自分という資産』をしっかりと構築し、それに合わせて仕事を選んでいく」
これからは、意識をそのように転換していきましょう。
自分らしい仕事を自分の意思で選ぶ自由こそ、キャリアにおける成功となるでしょう。
では、「自分という資産」をどうつくっていけばいいのか?本書では、それについて具体的な答えを述べていきます。
そもそも本書は二〇一〇年に単行本「3代で人生の年収は9割決まる」(大和書房)として刊行、多くの就活生や若手ビジネスパーソンに支持をいただきロングセラーとなりました。それから一〇年。二〇一一年に発生した東日本大震災や、昨今の新型コロナウイルス感染拡大による世界規模の危機など、社会・経済構造を大きく揺るがす出来事がいくつも起こりました。少子高齢化がより進み、人生100年時代が当たり前のこととなり、働き方改革やリモートワークの推進など企業を取り巻く環境も激変。人々の仕事観・人生観も大きく変わりました。そうした状況を踏まえ、大幅な加筆・再構成のもと文庫化しています。
できるだけ早く花を咲かせ、できるだけ多くを刈り取る。このような効率を優先した働き方は、もはや過去のものとなりました。これからは、しっかりと耕して強い土壌をつくり、そこに種をまくような、本質を追求する働き方が残っていきます。
就職してから三〇歳くらいまでは、所属する会社を使って、自分のやりたいことと、自分に合ったワークスタイルを見極め、自分を磨き抜く期間。いわばビジネスパーソンとしての「仕込みの八年間」です。ここさえきちんと押さえておけば、生涯にわたって運用できる「自分というビジネス資産」ができます。
二〇代から地味な仕込みをし、年齢ごとにやるべきことを着実にやった人が、それぞれの形の自分らしい成功に向かって歩いていく。仕込みというのは自分の核をつくることでもあり、その意味で、「3代で人生の年収は9割決まる」のです。
「この仕事なら一生食べていける」という安心感にしがみつくのではなく、「人の役に立ちたい」「人を喜ばせたい」という人間本来のあり方に戻って、自由に働いていく。
そのためのシビアでリアルな方法論をお届けできたら、著者としてこれほど幸せなことはありません。
二〇二〇年五月
土井英司

土井 英司 (著)
出版社 : 大和書房 (2010/12/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに不確実時代のシビアでリアルな方法論
序章「自分という資産」のつくり方
Q「米は食べるもの?植えるもの?」
「年齢」がマイルストーンになる理由
自分に合うかは「カルチャー・フィット」で判断する
「カルチャー・フィット」は自分にしかわからない
一生自分を守ってくれる「ふたつのリスト」をつくる
マネー・リテラシーを高めていく

第1章二〇代で始める「仕込みの八年」のルートマップ
Qエベレストの頂上はどこにある?
「仕込みの八年」のルートマップ
二〇代前半:会社に労力を提供し、ビジネスの基地知識を教えてもらう。
二〇代後半:「一生食べていける四つの条件」制潮に着手する
二〇代後半~三〇代・「社内ポジション」でなく「武曲」を狙う
三〇代前半までに「経験としての転職」をしておく
資格よりも役に立つのは「意外・複雑・多機」
苦手分野を学んでおく
わらしべ長者の勝因は、わらを手放さなかったこと
■キャリアを考えるブックガイド

第2章二〇代:仕込み」に最適な会社の選び方
Q「たくさん魚を釣ってこい」と言われたら、「大きい池・小さい池」どっちを選ぶ?
大企業こそ、二〇代の仕込みに最適な「学校」
小さな最先増企業の「鬼速PDCA」で急成長を狙う
ベンチャー企業は「ストックオプション込み」で考える
潰れそうな会社で知恵を学べ
外資系の現実は「日本支店」だと知っておく
絶対に担をしない!女性のための仕込みの場
仕込みができない「人気業界と接客業」を避ける
■ビジネスの基地体力をつけるブックガイド

第3章二〇代前半~:仕込みをしながら会社に尽くす
Q「壊れたゲーム機を今すぐ直せ!」と言われたら?
成功者のマインドにチューニングする
師匠と出会えなくても「教育システム」は利用できる
配属が不満だったら「GoodはGreatの敵」を思い出す
その師匠は「外の世界」にネットワークを持っているか?
上司に賭けてもらえる「大穴枠」になる
一〇〇倍コミットの計算式を知っておく
細部で人は評価される
「あえて効果」を知っておく
ビジネスの下流で仕事をする
判断力より洞察力を磨く
仕事の本質は雑用に宿る
ヒマを「サロン化」して賢くなる
二〇代に友だちはいらない
二〇代で「収入に依存しないシステム」をつくる
イノベーションは「背伸び」に過ぎない
■成功のルールを知るためのブックガイド

第4章二〇代後半~三〇代:自分のナンバーワンをつくる
Qシンデレラは、本当に純粋な女の子?
自由な人生のための交渉力を手に入れる
交渉力=自分という資産+取引先リストー顧客リスト
人生をかけていい「大義」は何か
自分が「お金と時間を使ってきたもの」を書き出す
「納得しない力」はその人の才能
「得意分野」はプライベートからしか生まれない
たったひとつの「湿ったスノーボール」をつくる
仕事は「やりたいこと」より「欲しい結果」で選ぶ
仕事と自分の才能は釣り合っているか?
「グローバル固有名詞」を獲得する
上司を勝たせて「共謀者」になる
魚群を見つけるまで「実統」を続けろ!
「みんなが無理だとあきらめたこと」をやってみる
必ず成果が出るフォームを身につける
「どうしようもないもの」も拾っておく
「会社の看板」を超える業界ホームランを打つ
三〇歳までに、投資で経済を「自分事」にする
終わりがない目標を持つ
■自分のナンバーワンを見つけるブックガイド

第5章三〇代~:会社を超えて「自分」を売り出す
Q大陸と島と橋、どれを買う?
仕込みの期間の仕上げは転職転職には三つの神類がある。
「年収を上げる転職」の三つのパターン
転職によって「評判と信頼」を確立する
三〇代の転職は、自分を輝かせる「舞台選び」
転職までにつけておきたい「マネジメント力、人脈力、表現力」
「何か質問は?」と言われたら、地頭力を見せるチャンス
自己PRは「四つのP」を考える

志動機で「四つのなぜ?」が言えれば採用
「この会社から求められていること」を知っておく
社会貢献のための転職こそ「お金の流れ」を見る
社内で手を挙げて「新しいこと」をやるのも手
地域変動の起きる場所にポジショニングする
独立や副業には「資本力が通じない仕事」を
■いい会社の条件がわかるブックガイド

おわりに「仕込み」を一生活かせる働き方

イラスト◎おおの麻里
校正◎內田辑
編集協力◎青木由美子

土井 英司 (著)
出版社 : 大和書房 (2010/12/18)、出典:出版社HP