卒サラの教科書 – 脱サラとの違いは?

最終更新日

脱サラではなく卒サラとは?

不確実性が高まり、経済の成長が鈍化している現代では、将来への不安や経済的に恵まれていないケースの増加が顕著になっています。そこで、本書では、人生100年時代と言われる社会でどのようにライフプランを立てるのか、そしてお金とどう向き合うべきか、会社員をどのように辞めることが適切かを紹介しています。
タイトルの卒サラとは、サラリーマンを卒業することを意味しており、一般的な言葉の脱サラは仕事が嫌でとにかく辞めたいというマイナスなイメージがあるために、使っていないとしています。卒業の場合は、しっかりとした人生設計を考えて、それに沿ったサラリーマンの退職をイメージしているそうです。そのため、会社員であることを前提とした資産形成の紹介が本書の目的となっており、その中でも特に不動産投資を強く勧めています。
著者は、かつて大手IT企業のエンジニアを勤めており、過労が原因で病気になった過去があります。その時に会社員でも経済的に困窮するリスクがあり、恐怖を感じたそうです。この健康にまつわるリスクは誰にでも存在し、リスクヘッジとしての副業を提案しています。著者はその後、不動産投資の成功などにより収入が増え、現在では時間をより有効に使い、充実した生活を送っているとしています。
この本では、主に投資や副業(複業)の紹介が行われており、なぜ投資や副業が重要なのか、本当に収入を増やすことができるのかを検証している箇所があり、投資初心者やこれまで投資や副業に関心がなかった方向けの本となっています。その他にも投資詐欺に遭わないための相場観の持ち方に触れていたり、自分にあった複業の見つけ方、見切り発車で会社を辞める危険性、目標の立て方といったことが書かれています。

『卒サラの教科書』というタイトルの通り、卒サラに関する基本的な考え方が紹介されています。文章も平易でさくさく読めます。全体的な内容としては、マインドセットに関する項目が多く、具体的なノウハウはほとんどありません。卒サラするまでの大まかな流れの解説、資産が複利で増える原理など概念的な話に終始している印象です。ターゲットは投資初心者であり、ある程度マネーリテラシーがある方では、知っている内容ばかりだと思います。株式投資をする場合では、証券口座を開設して、証券口座に入金した後に注文するなどの流れがありますが、そのようなハウツー的な内容は一切ありません。
この本の中で書かれているように、著者はロバート・キヨサキの『金持ち父さん貧乏父さん』から影響を受けており、それに沿った内容が多くあります。また、会社員は融資を受けやすいことから不動産投資が有利であることの紹介をしていますが、他の不動産投資がテーマの書籍でも書かれている内容です。本当の投資初心者でなければ、得るものはかなり少ないと考えてよいでしょう。
この本の位置付けとしては、自己啓発的な内容はあるものの、会社員で投資について全く知らない方向けの投資の入門書であり、もしかすれば投資を始めるきっかけになるかもしれません。読み終わった後に、実行したいと思えば、より詳しい書籍を読む必要があることは留意しておくべきでしょう。
本書の構成は、第1章から第5章まであり、第1章では、人生100年時代におけるライフプランのデザインについて解説しています。
第2章では、お金がテーマになっており、『金持ち父さん貧乏父さん』と同様の内容や自己投資の意義、借金でレバレッジをかけることのメリット、複利の重要性などが説明されています。
第3章では、副業の選び方と不動産投資がなぜ会社員におすすめなのかが解説されています。
第4章では、卒サラをするための目標設定の仕方を準備段階、期間とタイミングの設定方法などが書かれており、最後の第5章は、卒サラをするための準備をどうすべきかが書かれています。

木村拓也 (著)
出版社 : 秀和システム (2021/1/14)、出典:出版社HP

はじめに

はじめまして、不動産投資家、コンサルタントとして活動している木村拓也と申します。
この本は、サラリーマンの方が、できる限り低リスクに、何の不安もなくサラリーマンを卒業し、豊かな人生を送るための考え方である「卒サラ」について解説したものです。
現在日本は、「サラリーマンとして豊かに生きるのが難しい時代」に突入していると感じます。
誤解しないでいただきたいのですが、決してサラリーマンがダメだから今すぐに辞めろ、と言っているわけではありません。むしろ、今の仕事や生活に不安があるからといって、何の勝算もなく脱サラしてしまうのはとても危険だと思います。
私自身30年近く、システムエンジニアとしてサラリーマン生活を送り、サラリーマンの良いところもたくさん知っているつもりです。例えば私が専門とする不動産投資では、銀行からの借入(ローン)を使って物件を購入するのが普通ですが、その借入の際は同じ年収の自営業者よりも、サラリーマンの方が「収入が安定している」とみなされ、融資の条件が良くなったりします。
一方で、終身雇用や年金制度の崩壊、大手企業におけるリストラ、老後2000万円問題など、会社の給料「だけ」で生きていくのが難しい時代になっているのも事実です。
この本の「卒サラ」というタイトルを見て手にとってくださったあなたも、そういった時代の空気をなんとなく感じ取っているのではないでしょうか。

そんな中、先述のサラリーマンの長所を活かした不動産投資について書いた前著『サラリーマンは今すぐ5000万円借りなさい』は、多くのビジネスマンにご評価いただき、実際に私の元にも不動産投資の話を聞きに来てくださる方がいました。
一方、この本の執筆後に世界を襲ったコロナウイルスの流行とそれに起因する不況は、執筆時以上に「サラリーマンとしての仕事だけで安定した人生を送る」ことを難しくしました。実際に倒産してしまった企業や、そこまでいかずとも自分の生き方、働き方を見直さなければと感じた人も多いでしょう。
私自身は、というと現在は5棟の物件から入る家賃収入が主な収入源であることもあり、コロナ不況の直接的な被害は今のところありません。とはいえ、私の下に相談に来てくださる多くのサラリーマンから現状を聞く中で、前著以上に「サラリーマンの人生設計」について詳しく情報発信をする必要がある、と感じたことから筆をとったのがこの書籍です。

私自身がコロナの影響を受けずに済んだ最大の理由は、それに備えて準備をしていたからです。
というのも、十数年前のリーマンショックで会社の業績が大きく悪化するのをサラリーマンとして間近で目撃していたため、当時から「次にこんな不況が来たときのために備えなければ」と考えていたのです。そしてたどり着いたのが、不動産。最低限の衣食住というのはいかに不況といっても絶対に必要なものであるため、家賃収入などは景気に左右されづらいのです。
新型コロナウイルスの流行そのものは予測できずとも、こうやって様々な不測の事態に対応する「自分の力で生き抜く力」を身に付けることはできます。
本書では、私の経験を元にサラリーマンが会社に依存せず、自分の力で生き抜くためのノウハウを書きました。

繰り返しになりますが、決して「すぐに会社を辞めろ」と言っているわけではありません。
サラリーマンとして安定した収入など、そのメリットは享受しつつ、その間に自分自身の力で収入源=キャッシュエンジンを作り「会社がなくなっても大丈夫」な状態を目指す。そうなった上で、サラリーマンを辞めたい人は、何の不安もリスクもなく安全にサラリーマンを「卒業」しよう、それがこの本のタイトルである「卒サラ」に込めた思いです。したがって内容も、不動産投資のみに限りません。そもそも私が不動産投資を始めたのも、上場企業のエンジニアとして毎日終電まで働く自分ができる副業は何だろうか、と考えた末にたどり着いたもの。

すなわち、皆さんがそれぞれの環境に合わせて適切な選択肢を選ぶことで豊かに生き抜くというのが目標であり、不動産投資というのはその手段に過ぎません。
私も現在は不動産以外にも多くのキャッシュエンジンを持っています。ファンド(投資信託)を用いた不動産以外への投資でも、年間9%の利回りを実現していますし、コンサルティングやユーチューブでの情報発信といった、これまでのノウハウを活かした事業も行っております。
本書ではこういった経験をしている私が思う、サラリーマンが自分の力で稼いで生きていけるようになるために身に付けるべき、お金やビジネスに対する知識やマインド、そして具体的なアクションプランについて書きました。

ひと昔前であれば、お金やビジネスに対する勉強というのは「意識が高い人」「起業して大儲けしたい人」だけが取り組めば良いものだったのかもしれません。
しかし現代は「普通に老後まで貧しくない生活をする」だけでも、これらの知識が必要な時代になっています。
多くのサラリーマンが苦しんでいるのは、このギャップです。自分たちの親や先輩は、サラリーマンだけで生きていける時代を過ごしていて、その価値観で教育やアドバイスをしてくるのに、時代の流れはどんどんそれと逆行している。
そんな状況の中で、本書が「なんとなく今の仕事を続けていいか不安だ」「何か資産運用をしなければいけないのだろうか」「副業の時代になるって聞いたけど何をすればいいの」といった漠然とした疑問を抱える多くのサラリーマンにとって道しるべとなることを祈っております。

2021年1月
木村拓也

木村拓也 (著)
出版社 : 秀和システム (2021/1/14)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 100歳まで見据えた人生デザイン

1 会社の給与だけで一生不自由のない生活ができるのか
2 リーマンショックでもコロナでも揺れない人生設計を
3 体調を崩して感じたサラリーマンの「不安定性」
4 人生100年時代を生き抜く人生設計を
5 65歳以降を見据えた資産設計
6 「脱サラ」ではなく「卒サラ」
7 サラリーマン卒業生、木村の日常

第2章 自分の力で生きるために必要な「お金」の話
1 お金のことは学校では学べない
2 お金は2種類に分けられる
3 豊かになるには経営者か投資家になるしかない
4 お金は使えば使うほど増える
5 自己投資を惜しむな
6 借金をしたがるお金持ちたち
7 複利思考を身に付けろ

第3章 良い「副業」悪い「副業」

1 副業が必要不可欠な時代はすぐそこに
2 サラリーマンにおすすめの副業
3 お金を稼ぐ3つの方法
4 年2時間で年収1000万稼ぐ
5 サラリーマンのご褒美を享受しろ
6 副業を成功させるポイントは「人」

第4章 「卒サラ」のゴールを明確にする
1 焦らず時間をかけて準備する
2 卒サラのために今すぐやるべきアクションプラン
3 卒サラのタイミング
4 35歳を目安に卒サラを意識しろ
5 卒業できるか決めるのは自分ではなく先生

第5章 会社員のうちに済ませておくべき卒サラの準備
1 サラリーマンの悪しき風習に染まるな
2 サラリーマンとしての仕事はしっかりやりきれ
3 会社員の「信頼」を利用する
4 会社を踏み台にしろ
5 ビジネスにも「複利思考」を持ちこめ
6 3秒決断を身に付ける

おわりに

木村拓也 (著)
出版社 : 秀和システム (2021/1/14)、出典:出版社HP