【レビュー】アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書
筆者は、アンドリュー・O・スミス氏で、学生時代からお金、投資、資金計画に関するアドバイスを行い、ペンシルベニア投資同盟(アメリカでもっとも早い時期に設立された大学投資クラブのひとつ)の設立に関わる。受託者、ファイナンシャルアドバイザー、弁護士として、信託基金、遺産、投資パートナーシップ、有限会社、保険信託、不動産パートナーシップ、個人資産の管理の相談に乗る。現在は特殊化学品メーカーのイェルキン・マジェスティック・ペイントで最高執行責任者を務めるています。
本書の翻訳前のタイトルは『Financial Literacy for Millennials: A Practical Guide to Managing Your Financial Life for Teens, College Students, and Young Adults』となっており、10代、大学生、若者においてのファイナンシャルリテラシーとなっています。ですので、邦題である『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』よりも層が広いタイトルとなっています。
絶対に覚えておきたいお金のヒント
本書は「お金の教科書」というタイトルが付けられており、一見すると巷によくある金融本をイメージしてしまうかもしれません。確かに、ライフプランの立て方や投資、保険、税金などいわゆるファイナンシャル・プランニングの内容が多く含まれています。しかし、本書の大きな特徴は、それ以外のお金に関するコンテンツが幅広く扱われている点にあります。
契約や法律の基本的な部分の説明や金融詐欺の特徴と種類、詐欺から身を守る方法にも言及されているのは、他の本にはあまり見られません。詐欺までは行かなくとも、詐欺的な商法なども紹介されており、主要な詐欺的な手法のおさらいにも利用できそうです。
また、日本では、お金に関する教育が行われていない中で、生涯を通してお金とどう向き合うべきか、というファイナンシャル・プランニングの手前の、人生の原点とも言える課題から解説しているのは、かなり丁寧な印象があります。お金に関して深く考えてこなかった方というのは、世間を見渡すと意外と存在します。しかし、その課題に自分なりの答えが無いと、豊かで、意義深い人生を送ることが難しくなる場面が出てくる可能性が高まるのではないでしょうか。
ですから、そのような方々に、自分自身の人生や価値観を基準としてどのようにお金を稼いでいくのか、使っていくのかを考えてもらうことは重要です。本書は、お金に関心が低かった方々に、人生とお金の関係を考えるきっかけとなるかもしれません。
さらに、ワーク・ライフ・バランスやQOL(生活の質)に注目が集まっている昨今において、お金の話はより重要さを増しているため、このような本は今後より必要となると思います。
推薦者まえがき
いまでこそマネーについての本を何冊か書いているが、私が「お金」のことを真剣に考えたのは5歳のときで、結婚して子どもができて、勤めていた会社を辞めようと思っていた。ようするに切羽詰まっていたわけで、そんなことでもないと「お金」について勉強しようなんて思わないのだ。他に楽しいことはいくらでもあるんだし。
それに比べてアメリカの高校生は、この本で「お金」のことを学んでいるらしい。そこで読んでみたのだが、ものすごくちゃんとしていることに驚いた。
ここに出てくるのは、「将来に備えて貯金しよう」とか、「株ってなんだろう?」というようなよくある話だけではない(もちろんそれも大事だけど)。「社会に出たらどうやってキャリアをつくっていくのか」「独立や起業を考えるべきか」「収入と支出をどう管理するか」から、借金(クレジットカードや住宅ローン)、金融詐欺、税金、法律と契約まで、これからの人生に必要なことはすべて網羅されている。
高校生のときにこれだけのことを理解していれば、その後の人生はぜんぜんちがったものになるだろう。「やっぱりアメリカはスゴい!」と驚くかもしれないが、じつはこれは半分しか正しくない。
どんな人生を歩むかを自分で選択するためには、「お金」の知識はぜったいに必要だ。それにもかかわらず、日本の学校はいまだに「お金なんて教育にふさわしくない」という古い考えにしばられたままだ。ここでは、アメリカがずいぶん進んでいる。
でもアメリカの高校生が、この教科書の内容をちゃんと理解して、大人になってから役立てているかというとそうともいえない。10年くらい前に起きた世界金融危機の原因は、借金で不動産を買いまくったアメリカ人が続々と破産したことだったのだから。
この本には難しいことも書いてあるから、いますぐ理解できなくてもぜんぜんかまわない。大事なのは、お金の仕組みと社会の仕組みを時間をかけて学んでいくことなのだ。
橘玲
謝辞
この本は1通の手紙から始まった。
親戚の男性から、娘にお金のことを教えてもらえないかと頼まれたのだ。娘は医師で、同じ医師と結婚したばかり。この若い夫婦は、お金の教育にぴったりの生徒になってくれた。知的で、責任感があり、成功していて、そして夫婦そろって稼いでいる。しかし残念ながら、知的で高収入の人にありがちなのだが、このふたりも普段の生活が忙しすぎて、お金のことを学ぶ時間がなく、それに特に興味も持っていなかった。
私は昔からお金に興味があり、あらゆる金融詐欺の話を読んでは、その手口にあきれたり感心したりしていたのだが、そんなときにひとつ気づいたことがある。それは、被害者の中に医師がたくさんいることだ。とはいえ、考えてみればべつに驚くようなことではないのだろう。彼らは大金を持っているが、お金の知識はほとんどないからだ。
若い医師の夫婦は、私の話になかなか興味を持ってくれなかった。そこで私は、彼らに手紙を書くことにした。それから数週間かけて、私は、これからの時代を生きる若い人が知っておくべきお金の基本知識について考えた。その中には、私自身が学校で学んだこともあれば、周りにアドバイスする過程で自然に身についたことや、実際に痛い目をみて学んだこともある。そして生まれたのが、便せん10枚にもおよぶ長い手紙だ。内容は、いってみれば、すべてが激変する時代を生きぬく「若い世代のためのお金入門」のようなものだ。その手紙をきっかけに、若い夫婦と何度か実際にお金の話をするようになった。
彼らの現状を見るに、どうやら教育の効果はあったようだ。だからといって、彼らは『ウォール・ストリート・ジャーナル』の読者になったわけではないし、人気の投資番組のファンになったわけでもないが、それでも人生の目標と、そのために必要なお金については、真剣に考えるようになった。お金の管理と計画の大切さを、やっとわかってくれたようだ。
この本の草稿を読み、詳細なコメントをくれたジェフ・ヘンダーソン、ラーガン・メモット、デーヴィッド・ロバーツ、サリー・ザッカートに心からの感謝を捧げる。また、本書の一部を読み、的確なコメントをくれたバーニー・オストロウスキとホープ・ウォルマンにも感謝を。みんなどうもありがとう。この主題の大切さを理解し、私に本が書けると信じてくれたエージェントのスティーヴ・ハトスンと、プレイガー/ABC-CLIOのみなさんにも感謝している。私の執筆を支え、こんなに長い間家庭をおろそかにしても我慢してくれた家族のみんなにも心からの感謝を。
そして何よりも、曾祖父母への感謝を忘れるわけにはいかない。アメリカへの移民を決意した彼らの勇気と賢さのおかげで、私はこの国の市民になり、さらに質素倹約を旨とし、うまい話は疑い、そして独立独歩の精神を持つという、ニューイングランド人特有の金銭感覚を身につけることができた。
目次 – Contents
アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書 Financial Literacy for Millennials
推薦者まえがき(橘玲)
謝辞
第1章 お金の計画の基本
そもそもお金とは何か
購買力を下げる一大要因・インフレーション
どうすれば「経済的に自立」できるのか
人生設計とお金の関係
お金の専門家との付き合い方
一生お金に困らない生き方
自分の資産状況はどうすればわかるのか
お金を社会に還元する
バランスのとれた人生
第2章 お金とキャリア設計の基本
あなたのキャリアとお金の関係
人的資本―「資産価値の高い人」とは
人を雇うメリットとリスク
生涯所得を最大化させるために大切なこと
何のために働くか
報酬の額はどうやって決まるのか
報酬と福利厚生の交渉の進め方
自分に合ったキャリアの選び方
会社選びに失敗した時の対処法
インターンシップ、メンター、レファレンス
第3章 就職、転職、 起業の基本
ビジネスにおける「組織」の仕組み
決算書の読み方
「事業計画」に必要なポイントはこれだけ
フランチャイズビジネス
副業―一生食いっぱぐれない働き方
不動産
資金調達のやり方
景気はどうすれば読めるのか
「景気がいい」「景気が悪い」とはどういうことか
国境を越えたビジネス
第4章 貯金と銀行預金保険の基本
貯め方より使い方が重要?
どんな人でも貯まる貯金の仕方
銀行は何のためにあるのか
銀行口座
ATM
デビットカード
銀行以外の金融機関
サービスと手数料
モバイル決済
エレクトロニックバンキング
預金保險
銀行にお金を預ければ安全か?
第5章 予算と支出の基本
予算設計の第一歩
お金の「出入り」に注目する
もしもの備え
実際に予算を立ててみよう
自動車を買う
自立した生活
第6章 信用と借金の基本
借金と返済計画
お金の時間価値
担保と返済
住宅ローン
金利と複利の仕組み
償却とは
クレジットカードの得する使い方
自動車ローン、その他の個人ローン
「信用」はどう数値化されるのか
使ってはいけないローン
債権回収の恐怖
責任あるお金の使い方
失敗しないローン返済計画的
賃貸と持ち家、どちらが得?
大学にかかるお金
教育費は全部でいくらかかるのか
ものの値段はどう決まるか
賢い消費者になるために
第7章 破産の基本
最後のカードはなぜ「破産」なのか
最後の打ち手を回避するには?
破産すると、人生はこうなる
第8章 投資の基本
投資でお金を育てる
リスクとリターンの考え方
株式市場はどういうところか
低リスクではじめられる投資信託
「株価指数」の読み方
債券―株より安全な投資
マネー・マーケット・ファンドの仕組み
デリバティブ(金融派生商品)
商品と通貨
その他の投資
損失の考え方
金融市場の安全性
第9章 金融詐欺の基本
「必ず儲かる投資」のウソー―ピラミッドスキーム
その他の投資詐欺
誰かがあなたになりすます
パソコンやスマホを安全に使う
ワンクリックの罠―ネット詐欺
見えるお金はなくなるのか―仮想通貨、ビットコイン
不動産でお金持ちになる?
信じてはいけないマルチ商法
デイトレードは楽して儲かる?
ギャンブルの落とし穴
あなたに忍び寄る金融詐欺
消費者のためのセーフティネット
第10章 保険の基本
保険とは何か
あらゆる損害を補償する財産保険
暮らしを守る賃貸保険
事故に備える自動車保険
全国民が加入する医療保険
万が一のための生命保険
訴訟時に備える賠償責任保険
SNSのリスク
その他のリスクに対する保険
第11章 税金の基本
税金と納税の仕組み
税金で何ができるのか
「消費税」は何のためにあるのか
「あなたの所得税」はいくらか
税金と収入・支出の関係
税制とあなたの仕事
第12章 社会福祉の基本
貧困格差解決ガイドライン
学資ローン・奨学金
住宅ローン
失業保険・労災保険
第13章 法律と契約の基本
契約とはどういうことか
婚前契約
法的責任のリアル
有形財産と無形財産
知的財産 ―アイデアを具現化したもの
不法行為
民事訴訟と刑事訴訟
ブラック企業から社員を守る法律
第14章 老後資產の基本
老後の資金計画
老後資金はいくら必要か
遺言と遺産―相続の準備の仕方
信託―財産の使い道を決める
お金と健康寿命
家族の役割
付録 この本で学んだ大切なこと
索引