【レビュー】アイデアで稼ぐ不動産投資 変幻自在の物件活用戦略

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収益を生み出す方法は無限

現在、日本の不動産市場は今後より厳しくなると言われています。人口減少が大きな理由で、実際、空き家が社会問題化しています。その他にこれまでも、スルガ銀行が行った「かぼちゃの馬車」への融資の問題やレオパレス21の施工不良問題などがあり、不動産投資は苦境に立たされていると言ってもよいでしょう。

その中でも如何にして、不動産投資を高い利回りで運用していくのかを本書では、解説しています。市場環境の分析と今後の展望に始まり、これからの不動産投資への考え方の指南やその考えに基づいたアイデアを実践した事例の紹介、さらには成功に結びつくアイデアを生むための行動や将来的な社会と不動産について書かれています。

本書の著者は、現在まで、数々の不動産投資を経験しながら、不動産コンサルタントとしても活躍し、様々な相談を受けています。そのため、かなり説得力がある文章だと思います。本書の前半で示されている不動産投資への考え方については、考えさせられるでしょう。

コンセプトづくりとブランディングを考え、そのような概念的なものから需要と供給のバランスを分析し、外部要因も考慮するという考え方は、不動産投資に限らず、事業の運営や会社の経営にも通じるものがあります。

不動産投資は不動産の経営と考えるべきなのかもしれません。ただ不動産を持っているだけで、後は何もしなくてもお金が入ってくる、ということは無く、積極的に稼働率が高まるような工夫や商品づくりを行う必要があるのでしょう。

また、3章では、著者がこれまで投資してきた事例を取り上げ、投資判断のポイントとともに、事例ごとのコンセプトや需要と供給などの考え方の解説も行われているため、自分自身の不動産投資への応用もできるかもしれません。

その他にも、不動産投資を行う上で必要な考え方や情報の扱い方についても解説しています。内容は充実しており、説明もわかりやすいですが、扱うテーマが多く、話題も変わることが多いため、情報の整理がしにくいように感じます。全体を通して、体系的にテーマの位置づけなどの整理を行ったほうが良さそうです。

はじめに

賃貸経営の市場が悪化の一途をたどっています。不動産調査会社タスが公表する「タス空室インデックス(TVI)」によると、2018年における空室率は東京都や千葉県で33%を超え、東京市部では37%以上、さらに神奈川県では39%を上回る水準となりました。2015年の空室率が東京都や千葉で約29%、東京市部や神奈川県でも30%強だったのに比べ、3年でかなりの悪化です。

実際、物件の利回りも低下しています。2017年に発表された一般財団法人日本不動産研究所の「不動産投資家調査」によると、東京/城南地区の賃貸マンション(ワンルーム)の期待利回りは、2009年の約6%をピークに2017年には約4.5%まで落ち込んでおり、ほかの首都圏、大阪、名古屋のマンションやオフィスビルも同様に利回りが低下しています。

手持ちの土地にアパートやマンションを建てようという地主・地権者、あるいは不動産を購入して運用したい資産家にとっては、厳しい時代になりました。ご存じのとおり日本の人口は今後減少していく一方ですから、長期的に見ても、環境が改善する見込みはありません。2019年7月時点で1億2622万人いる日本人の人口は2065年には9000万人程度まで減る推計で、賃貸需要もそれに伴って低下していくことは間違いないのです。

とはいえ、運用利回りを得ながら相続税節税などの効果も発揮できる賃貸経営は、やはり魅力的な資産運用手法です。マクロの賃貸市場が厳しくても確実に入居者を集め、安定した賃料を得る方法はないのでしょうか。

私は不動産コンサルタントとして、地主・地権者や資産家からの「手持ちの土地を高利回りで活用したい」「現金が手元に多くあるので不動産で運用したい」「築古のアパートを建て替えるので、入居者のニーズに合った仕様を知りたい」といった相談に対して購入プランや建築プランを提案しています。

市場環境が変わったここ数年で重要になっているのは、綿密なシミュレーションやマーケティングに基づく、地域の競合物件とは差別化した物件づくりです。
例えばコンビニやカフェをテナントとして誘致したり、屋上をバーベキュー場として使えるようにしておいたりと、ちょっとした付加価値でも構いません。

それが地域のニーズを的確にとらえていれば、普通の賃貸物件と比べて入居者は格段に集まりやすくなるのです。結果、周辺相場より2万円高い家賃でも満室になる物件や、建築コストを4割以上抑えても入居者が集まる物件を多数生み出しており、多くの地主や資産家の投資利回り向上に貢献しています。

マクロの経済動向や周辺住民の家族構成、年齢分布、平均年収…・さまざまな知識とデータから導き出したアイデアがあれば、どのような時代、どのような環境でも稼ぐことができる、変幻自在の不動産投資が可能となります。本書では、前著『マンションオーナーの赤字脱却術』にて「どんな赤字物件も2年で黒字化する方法」を提唱した私が、これまでに経験・実践した新しい不動産投資法を紹介しつつ、これからの不動産投資のあり方を再定義しています。

加えて、入居者の需要を的確にとらえるためのポイントなど、これからの時代に不動産投資を成功させるために必要なスキルを身につけるコツについても網羅しています。実例からも、そして理論からも、この先の不動産投資に必要なヒントを得ていただければ幸いです。
今後、さらに厳しくなるであろう日本の不動産市場において、本書が不動産投資に悩む人々のお役に立てることを願っています。

目次

はじめに
第1章
激変した市場環境 不動産投資で稼ぐことは可能なのか?
度重なる不動産業界の不祥事と不動産投資ブームの終焉
適切な対応ができないオーナーには厳しい状況が続く
投資判断に手腕が問われる時代へ
安易なトレンドに乗る不動産投資は危険
「ビジネス」としての不動産投資に必要なこと
消えゆく不動産投資ブームから今後を読み解く
入居者の需要を的確にとらえていくことが必要に

第2章
居住用賃貸で稼げない物件も活用次第で大化け!不動産投資は「アイデア」が勝利のカギ
これからの不動産投資に必要なアイデア
コンセプト設計とブランディング
需要と供給のバランスに配慮する
自分の考えをどこまで深められるかが大事
経済事情に精通していることは必須
外的要因をもふまえた投資戦略を立案する
自分が保有している土地の状況を把握する
各地で見られる新しい不動産の潮流とは
増加するシニアの需要に応える方法
インバウンド需要の現状とこれから
社会課題を解決する「日本版CCRC構想」とは

第3章
実践! アイデアで稼ぐ不動産投資事例
コンビニの誘致によって付加価値のある不動産投資を実現
明確なターゲット設定で収益力アップ
インパクトのある外見で“支持される”物件に
高級住宅街にあえて一戸建て風賃貸を手掛ける
沖縄の豊富なインバウンド需要が決め手に
リピート客の確保が成否を分ける
「大人向けのホテル」としての明確な差別化
コラム① リフォーム・リノベーションの考え方について
コラム② 中古物件を購入して手を加えていく手法

第4章
発想は「情報量」から生まれる! 物件活用のアイデアを創出するコツ
不動産投資を成功させるための情報の活かし方
市場に存在しない物件を建てる
マーケットの空白に着目することの重要性
情報によってもたらされるセンスとアイデア
情報社会におけるインターネットの活用方法
有益な情報の宝庫である不動産業者
エリアマーケティングを不動産投資に活かす
駅や商業施設の動線から地域を分析する
東京都内に存在する注目エリアとは
鉄道会社の開発計画や企業の動向をチェックする
次に打つ手を考案するヒントとは
本物の投資家は自分の頭で考える
コラム③ 業者や施工会社の見極め方

第5章
未来の社会を常に見据えて投資家として生き残れ
広がる外国人労働者向けの賃貸需要
深刻化する空き家問題への対応
社会的な意識の変化に見るニーズの多様化
東京オリンピック・パラリンピックと日本経済
「かんぽの宿」営業終了に伴う日本郵政の動き
「ハード」の提供と「ソフト」の価値とは
無視できないSNSのインパクト
少子化時代に必要とされる住まいのコンセプト
「シェア金沢」に見る未来の不動産活用とは
不動産が地域交流のあり方を変えていく
出口戦略を考案するうえで必要なこと

おわりに