2025年を制覇する破壊的企業 – 世界最先端11社とは?

最終更新日

5年後のテクノロジー

時代のトレンドに乗り遅れ、未来予測を間違えると、いかに大きな企業であっても淘汰されていきます。現代と大きく様変わりするであろう2025年の未来で、企業やビジネスパーソンが生き残るためにはどうすればよいのか、その術を紹介していきます。

第1部 2025年はどうなっているか?
第1章 世界最先端11社の思惑と3つのメガトレンド
5年後の未来に大きな影響力を持つ企業とは、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、ネットフリックスなどです。これらの企業の動向を総合したその際には、「業種の壁崩壊とコングロマリット化の再来」「ハードでもソフトでもなく“体験”が軸になる」「データを制するものが未来を制す」という3つのトレンドが見えてきます。これらのトレンドに乗れない企業は、この11社をはじめとする乗れる企業に飲み込まれていくでしょう。

第2章 11社がつくるメガトレンド① 業種の壁崩壊とコングロマリット化の再来
時代は常に変化していて、次から次に新しい技術やサービスが登場しています。現代では変化が加速し、農業や運輸など様々な業種でトレンドの変化や改革が起きています。企業はこれらの時流をいち早くキャッチアップし、常に変化に対応できる準備ができていなければなりません。本業が何であるか決めずに業種の壁を乗り越えることができる企業こそが、これからの時代に成功する企業なのです。

第3章 11社がつくるメガトレンド② ハードでもソフトでもなく“体験”が軸になる
ソフトウェアファーストという言葉があるように、昨今のトレンドはソフトウェアが優位なイメージです。しかし、今後はハードとソフトがあるのは当たり前、その上で顧客にどのような価値を提供できるのか、つまり体験が重要になります。典型的なハードウェアだとされていた、電気、水道、ガスといったインフラまわりも、未来の社会では大きく様変わりするでしょう。これからは、体験が革命の基点となっていきます。

第4章 11社がつくるメガトレンド② データを制するものが未来を制す
データの取得ならびに利活用が盛んになった10年ほど前から、データは新しい時代の石油と言われるようになりました。そして、今の社会にとってデータは石油と同様に、なくてはならないものになり、データがないと成り立たない場面も増えてきました。あらゆるデータを包括的に取得・共有することで、ユーザーにとってベストな結果が得られるようになる。売り手にとっても無駄なく最短で商品やサービスが提供できる。そのような未来が見えてくるのです。

第2部 2025年を生き抜く処方箋
第1章 5年後に破壊される企業、台頭する企業
これまでの顧客のタッチポイントは主に実店舗での接客でしたが、インターネットの登場によって、このようなこれまでのビジネスモデルを破壊しました。顧客の情報を吸い上げ、それぞれの顧客にマッチした商品やサービスを紹介していく。つまり、顧客にとって良い体験をインターネットというタッチポイントで繋がり続けることで、提供し続ける。これが、未来で成功する企業のモデルです。テクノロジー化が遅れている、データの活用が進んでいない企業が多い業界は、これからの未来では淘汰されていってしまうでしょう。

第2章 5年後、あなたの仕事はこう変わる
2025年の未来を生き抜くには、英語・ファイナンス・データサイエンス・プログラミング・ビジネスモデルが読める、この5つのスキルを持っておくことが重要です。また、業界の壁を超えた人間関係を持つことも、ビジネスで成功する鍵となります。淘汰される可能性の高い業界にいる人もそうでない人も、これらのスキルを身に付け、どの業界でも通用する人材になるべき時代になっていくでしょう。

山本康正 (著)
SBクリエイティブ (2020/11/6)、出典:出版社HP

はじめに

5年後の未来はこの1社が決定づける

浦安にある高層マンションの一室で、ひとりの男性がなにやら頭にゴーグルのようなデ バイスを装着し、目の前のモニターに向かって身振り手振りを交え、話しかけています。
男生の名は中村 翔(仮名)。年齢は2歳。モニター右下のカレンダーを見ると、202 5年2月2日と表示されています。
翔さんは東京大学を卒業した後、日系の大手商社に勤め始めました。しかし、年功序列や新しい制度・テクノロジーを取り入れない旧態依然の体質が合わないと、退哉。人工知能(AI)の開発を手がけるベンチャーに転職します。職の安定性は下がりましたが、やりがいがあり、上場を目指しスピード感のある会社です。
翔さんが頭に装着しているデバイスは、マイクロソフトのホロレンズという製品です。 このデバイスを使うと、これまでPCやスマートフォン上に表示されていたバーチャルの画面が、レンズを通じて目の前の現実世界に投影されます。翔さんが先ほど話しかけていたモニターも現実のものではなく、本来であれば何もない空間に投影されたバーチャルイ メージです。そこには、別の場所にいる会社のメンバーが映し出されています。
翔さんはこのホロレンズを使って、彼らと、2026年に発売予定製品の新しい広告キ ャンペーンについて、ミーティングをしている最中でした。
このような、現実の世界に仮想世界を融合するMR(Mixed Reality)技術がここ数年 急激に社会に浸透。ビジネスにおいても暮らしにおいても、なくてはならない存在となっています。
さらに、翔さんが話しかけているモニターの横には、来年のキャンペーンで使うグッズが立体的に原寸大で浮かび上がっています。グッズの横には、キャンペーンで使用する動 画も同じく流れています。これらも、もちろんバーチャルイメージです。
ミーティングに参加しているメンバーは、翔さんも含め10名。アメリカオフィスのPR 担当、フランスオフィスの企画開発者、中国工場の責任者など。ミーティングの参加者は全員ホロレンズを装着し、動画やグッズを共有し、議論を重ねています。
しばらくすると翔さんはホロレンズを外し、パソコンを操作し始めました。次の会議に参加するためです。使っているビデオ会議ソフトは、Zoom を買収したグーグルによるGoogle Zoom。以前は別のソフトを主に使っていましたが、ベンチャーに移ってからはビデオ会議ツールだけでなく、他のビジネスアプリの多くがグーグルに変わりました。
ビデオ会議の相手はカリフォルニアオフィスのジョンです。ジョンはそろそろ終業時刻ですから、プロジェクトのバトンを引き継ぐための打ち合わせのようです。
翔さんは英語が堪能ではありませんし、ジョンも日本語が話せません。でも2人がコミュニケーションで困ることはありません。翔さんの話した日本語は英語に。ジョンが話した英語は日本語に瞬時に翻訳され、音声としてお互い聴くことができているからです。
グーグル・ディープマインドの人工知能ならびに、膨大なデータを瞬時に処理することができるクラウドのおかげです。
人工知能の役割は翻訳だけではありません。会議の内容も、英語、日本語両方の言葉で議事録としてドキュメント化。メールや契約書を作成する際にも、人工知能がこれまでの仕事の履歴から、最適なフォーマットを提案してくれます。そのため翔さんがするべきことは、フォーマットを埋めることと、送信ボタンを押すことだけ。数年前から、紙を使うこともなくなりました。
これだけの優秀な機能を備えたパソコンですが、価格は1万9800円です。グーグルが発売している端末で、インターネット接続程度の、最低限の機能しか備わっていません。 ただ横に置いてあるスマホやクラウドと連携することで、先の人工知能のような高機能を可能にしています。
パソコンは翔さんの私物です。そのため会社が資産管理をするために貼るステッカーも見当たりません。クラウドストライクというベンチャーが開発した、人工知能とゼロトラスト(社内外問わず完全に信頼できる者などいないという前提に立った考え方)を活用したセキュリティのおかげです。VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)やアンチウイルスソフトを使う人は、セキュリティの懸念から2025年では随分減りました。
毎日必ずオフィスに通うとの社内規定も、翔さんが商社を辞めたいと思った理由の一つでした。満員電車が嫌なのもありましたが、自宅にいながら十分仕事ができると考えていたからです。そして今まさに、そのとおりの働き方をしています。
オフィスに行くタイミングや頻度は従業員の裁量に委ねられており、結果を出せばいい からです。そのため翔さんがオフィスに行くのは、週に1度ほどです。

5年前に世界を恐怖に陥れた新型コロナウイルスの影響は、今でも続いています。ワクチンは開発されましたが、コロナウイルスは変異。さらに毒性の強い COVID-22,24が出現し、再び新しいワクチンを開発しなければならない。そんなイタチごっこが続いている状況だからです。
ただ人類もだまっていません。GAFAをはじめとするテクノロジー企業が、人が密にならない、直接会うことなくビジネスを行えるさまざまなテクノロジーの開発を加速させたからです。そして翔さんの会社のように、多くの会社がテクノロジーを導入、DX(デジタルトランスフォーメーション)は瞬く間に社会に浸透しました。
「コロナでテクノロジーの進化は10年早まった」と、ある専門家がコメントするほど、 新型コロナウイルスの登場で、2025年の世界は劇的な進化を遂げています。
一方で、翔さんが以前働いていた商社はDXの波に乗り遅れました。アメリカ投資家のウォレン・バフェット氏が10%近くまで株式を買い増しましたが、感染症が収まらないことから資源の市場は戻らず、会社の株価は冴えず、結果、優秀な人材が次々と流出、以前 のような輝きはなくなりました。
経済産業省が2018年に警告したレポート「2025年の崖」の通り、古いシステム を使っている大企業はIT予算のほとんどがメンテナンスに使われてしまい、資産だと思 っていたシステムは負債に変わり身動きが取れない状態に陥ってしまったのです。

通勤は電車の200%コスパのいい”ロボタクシー”

今日は、オフィスに行く日です。翔さんは準備を整えると、スマホを取り出し迎車アプリでタクシーを呼びました。エントランスに降りていくと、先ほど呼んだタクシーがすでに停車しています。
タクシーのボディには「ロボタクシー」と書いてあります。このタクシーは自動運転のモビリティであり、ドライバーはいません。見た目も以前のモビリティとは大きく異なります。ハンドルはありませんし、前席、後席の区別もなし。ボックスシートの仕様で、複数人が搭乗したときは、向かい合ってコミュニケーションをとることができます。テスラ が開発しました。
車内に乗り込むと、翔さんお気に入りの音楽が流れています。翔さんはプライベートでもテスラオーナーのため、テスラの人工知能が翔さんの好みを把握しているからです。車内にはモニターもあり、ビジネスに役立ちそうなAI関連のニュースが流れています。
ロボタクシーはテスラが手がけているサービスで、ふだんは駐車場に停めてある車両を、 タクシーとして利用するサービスです。2025年の世界では街中のあらゆるところ、しかもホテルやスーパー、スターバックスといった利便性の高いところにテスラの充電ステーションが設置され、充電で困ることはありません。
テスラは太陽光発電事業にも進出。翔さんの住むマンションには、テスラのソーラーパ ネルも備わっています。
ロボタクシーを展開しているのはテスラだけではありません。アマゾンもテスラに対抗 し、2020年に自動運転技術を手がけるベンチャー、ズークスを買収した後、急激にロボタクシーの開発を進め、アマゾンタクシーを走らせるようになりました。
アマゾンタクシーはまさにアマゾン一色です。車内に入るとアマゾン製品があちらこちらに置いてあります。テスラと同じようにモニター類も設置され、そこにはアマゾンが顧客から得たビッグデータ解析により最適化された、動画コンテンツなどを配信。
アマゾンタクシーには、コロナ禍の影響を考慮した仕組みも備わっています。乗客が降りる度に、車内を自動消毒する機能です。その消毒スプレーももちろんアマゾン製で、その場で注文することもできます。
アマゾンがロボタクシーの開発を始めた2020年は、ライドシェアではありませんが配車サービスとして東京でウーバーのサービスが始まった年でもありました。しかしウーバーは瞬く間にロボタクシーに市場を奪われ、東京から撤退せざるを得ませんでした。
電車に乗る機会もめっきり減りました。時間、料金、安全性において、圧倒的にロボタ クシーの方が勝っているからです。電車であれば浦安から六本木のオフィスまでは約5分、 料金は350円でしたが、ロボタクシーを使えば5分で210円ほど。しかもドア・ツー・ドアで、密の状況も避けられます。
このような理由で、多くの人がロボタクシーを使うようになり、電車は以前の10分の1 程度しか走らなくなりました。
電車、ウーバーと同じく2025年の世界で淘汰されているものがあります。自動車ディーラーです。ロボタクシーの登場で自家用車を購入する人が激減したことが理由です。
六本木のオフィスビルに着きました。翔さんは料金を支払うことなく、そのままビルの中に入っていきます。乗車予約時に使ったアプリで自動精算されるからです。ロボタクシーは翔さんを降ろすと、スーッと次の客の元に向かっていきました。電気自動車なので、音も静かです。

出張先の宿はアップルホテル

あるとき、翔さんは大阪に出張に行くことになりました。以前であれば新幹線で移動中は、車内 Wi-Fiを利用していましたが、今では Wi-Fiを利用することはありません。5 Gが十分に浸透したからです。5Gに加えて通信設備をクラウドに移行したことで、通信 費用も大幅に下がりました。
翔さんが契約しているプランは、月額500ギガまで使えて3000円です。5年前には同料金で使える容量は5ギガ程度でした。今では移動中も容量を気にすることなく、スマホやノートパソコンはつなぎっぱなし。動画を観ても遅延するようなこともありません。
出張先での商談を終えた翔さんは、宿に向かいました。アップルが最近オープンした、アップルホテルです。感染症のため大手ホテルグループが破綻し、大手プライベート・エクイティ・ファンドが買収をしました。その中で高級ブランドのホテルのみ、アップルがブランド権を買い取ったのです。アップルは、アップルカードを日本でも発表し金融業界へ参入しました。iPhone ユーザーであれば他のカードよりも割引率が高いため、アップルカードは瞬く間に浸透。アップルホテルを選んだのも、さらなる割引を受けられるからです。
翔さんがアップルホテルを好むのは、割引率が高いからだけではありません。手間なく、 快適な環境で過ごせるからです。翔さんはホテルに入り部屋に向かうと、部屋の前にある タッチパネルに iPhone をかざしました。
すると、空調や照明、サウンドなどが翔さんの好む状態にプリセットされました。アップルが提供する、アップクリップスというサービスが実現しています。
アップクリップスを利用すると、個別のアプリをインストールしなくても、必要なときだけアプリの機能を利用することができます。しかも連携は iPhone をかざすだけ。iPhone とアップクリップスがあれば、どこに行っても iPhone をかざすだけで、自分の好む環境が瞬く間に実現します。
商談で疲れたのか、アップクリップスが提供してくれた環境が心地よかったのか、翔さんは部屋に入ると、すぐにベッドで横になりました。すると耳に装着していたアップルの無線イヤホン、エアポッズから、心が落ち着く音楽が流れてきます。このまま寝てしまうと思った翔さんは、かけていたメガネをベッドのサイドボードに置きました。
エアポッズが心の落ち着く音楽を流すことができたのは、メガネから得た情報を分析していたからです。アップルグラスです。アップルグラスは翔さんの表情を読み取り、心や体の状況を分析。疲れていると判断し、癒やしの音楽をエアポッズを通して流してくれたのでした。
グラスが置かれた後には、さらに落ち着く、心地よい眠りにつくような優しい音色へと変わりました。
翔さんは数年前から、お風呂や運動をするとき以外、アップルグラス、アップルウォッチとエアポッズを常に装着しています。最適な情報が送られてくるのはもちろんですが、デバイスが進化したことで、充電も無線で行えるようになったからです。

AI先生、小学2年生に九九を教える

翔さんには小学校2年生の男の子、翔平くん、保育園に通う5歳の女の子、翔子ちゃんという2人のお子さんがいます。小学校の授業も、長引く新型コロナウイルスの影響で、完全にリモートに移行。翔さんが自宅でリモートワークしているのと同じように、翔さん の隣の部屋では、翔平くんが学校の授業を受けています。
リモート授業でもホロレンズは活躍しています。今日は、理科の授業のようです。ホロレンズを装着した翔平くんの目の前には、人体模型が実物大で浮かび上がっています。先生の説明と共に、内臓、骨などが、まるで解剖されているかのように次々と浮かんでいき、翔平くんは興味津々です。
分からないことがあればその場で、先生に質問できるような、インタラクティブな授業にもなっています。よほど体の仕組みが興味深かったのでしょう。翔平くんだけでなく、多くの子どもたちから一斉に質問が上がりました。すると先生以外の声で答えています。人工知能が質問を把握し、それに応じて瞬時に答えているのです。
人工知能はテストの解答も先生の代わりに行いますし、自宅での勉強でも心強い味方で す。たとえば九九。生徒一人ひとりにより進捗が異なることを把握し、適した指導を行い ます。翔平くんは8の段が苦手なことをAI先生は分かっているので、今日も徹底的に8 の段を繰り返し復唱しました。
人工知能先生の登場により、教材をストリーミングするだけのeラーニングコンテンツはシェアが低下しています。
効率よく学習でき、学校までの移動時間もない。子どもたちの遊ぶ時間は、以前より増えました。もっぱら遊びは、ネットゲームやバーチャル空間でのSNSです。翔平くんが最近ハマっているのは、世界最大級のオンラインバトルゲーム「フォートナイト」です。 勉強が終わると、フォートナイトにログイン。先に入っていた友だち数人がすでにプレイを楽しんでいて、翔平くんもその輪に加わります。
友だちの中には、ゲームの実況で盛り上がっている子もいます。ホロレンズはつけたまま。実際に友だちが隣にいるような感覚で敵と戦うことが、翔平くんにとってはたまらなく心地よいようです。
ゲームに飽きると、次はホライズンにログインしました。ホライズンはフェイスブックが提供しているサービスです。ネット上のVR空間で「アバター」と呼ばれる自らの分身を通じて他の参加者と交流できます。
翔平くんはホライズン内に暮らす自分のアバターを動かし、飛行機を操縦したり、先ほどと同じようにホライズン內の友だちとバトルゲームをするなどして楽しんでいます。

アレクサクッキングシェフご用達の大豆肉のステーキ

パートナーのえりかさんはサービス業のため、翔さんとは違い、働きに出ることが多いです。そのため翔子ちゃんは保育園に通っています。ある日、えりかさんのスマホのアラートが鳴りました。アラート元は、翔子ちゃんの腕につけられたアップルウォッチからでした。
アップルウォッチはバイタルの多くを計測するように進化し、そのアラートは翔子ちゃんのバイタルを分析した結果、体調が悪くなると判断。アップルが送ったものでした。えりかさんは早々に仕事を切り上げ、翔子ちゃんをお迎えに。大事に至ることはありませんでした。
仕事から戻ったえりかさんは、夕食を作り始めました。といっても、自分で包丁を握ったり、鍋を使うようなことはありません。えりかさんが行う作業は、冷蔵庫から食材を出してまな板の上に置いたり、カットされた食材を電子レンジや鍋に入れるといったことくらいです。本格的な調理はアマゾンのロボット、アレクサクッキングシェフが行ってくれます。
クッキングシェフにはアマゾンのAI、アレクサが搭載されていて、食材を画像認識すると、レシピに沿ってどのように調理したらいいかを瞬時に判断。自分ではできないことを、えりかさんにお願いします。
えりかさんは調理だけでなく、レシピを考えることもしません。アレクサがこれまでの好みや傾向、健康状態を把握し作成してくれるからです。買い物にも行きません。令蔵庫にもAIが搭載されていて、食材が足りなくなったり、調理に必要な食材は自動で注文・配達されます。
ときには変わった食材を頼みたいこともありますが、そのようなときもスマートスピー カーに「アレクサ、生パクチーをたっぷり注文しておいて」と話しかければOK。生活のあらゆる場所にAIが介在する「スマートハウス」という概念で、アレクサというOSが 家をコントロールしているような感覚です。
翔さん一家が暮らすマンションは、アマゾンマンションといい、アマゾンが手がけている不動産です。部屋に置かれている家電はすべてアマゾンがセレクトした品で、調理器具に限らず、トイレやお風呂といった水まわり、空調・照明なども、すべてアマゾンブランドです。
すべてのデバイスがクラウドを介して連携しており、翔さん一家は自分たちが動くこと なく、点灯や消灯など、大抵のことをアレクサが判断し自動で行います。
アマゾンマンションは快適なだけでなく、同程度の物件より安価という特徴もあります。 アマゾンがデータ取得や広告の場でもあると捉えているからです。入出時は鍵もカードも 使いません。入り口に設置されたカメラによる顔認証で行われます。
アマゾンマンションには農場も備わっています。先ほどえりかさんが調理していた食材 は、同じ建物内の農場で作られた作物で、生産された野菜などはマンション住人だけでな く、アマゾンを通して一般の人も買うことができます。
料理ができたようです。テーブルに並べられた料理は、肉汁がしたたっている熱々のステーキです。えりかさんは一口食べると、「おいしい!」と満足そうな表情を浮かべました。ただこのステーキ、実は本物の牛肉ではありません。大豆から作られている代替肉です。アメリカのベンチャー、インポッシブル・フーズが開発しました。
えりかさんは若いころから動物の殺生問題などに関心が高かったため、ベジタリアンに 興味がありました。ただおいしい食事にも関心が強かったため、長い間諦めていました。それまでのベジタリアンフードを、あまりおいしいと感じていなかったからです。しかし数年前から完全にベジタリアンに。インポッシブル・フーズのおかげです。
インポッシブル・フーズの大豆肉は、味が肉と同じというだけでも画期的なのですが、 さらに食感まで肉と同じになっており、「ベジタリアンだって肉の食感がほしい」という消費者の潜在的ニーズを見事につき、瞬く間に世界中に浸透しました。

100万通りのシナリオがある『愛の不時着2』

食事を終えたえりかさんはテレビを観ようと「アレクサ、テレビをつけて」とアマゾンエコーに話しかけます。テレビはすぐにつきましたが、流れている番組は5年前とはだいぶ変わっています。
オンタイムで番組を見る機会がほとんどなくなったからです。テレビに映し出されたのは5年前に日本でもブームになった韓国ドラマの続編『愛の不時着2』。えりかさんが韓流好きなのを知っているアレクサが、ネットフリックスのコンテンツを映し出しました。
番組を見終わったえりかさんは、すぐにスマホで友だちと連絡を取ります。

「エンディング、どんな終わり方だった?」

少し不思議な会話です。原因は、同じ映画やドラマでも視聴者によりシナリオが異なっているからです。
ネットフリックスは人工知能を使って視聴者の視線や表情を解析し、適した映像も人工知能で自動生成します。視聴者の「今」の嗜好に沿ってリアルタイムにシナリオや映像が変わる作品を提供するようになりました。視聴者が100万人いたら100万通りのストーリーがあるのです。2025年の世界ではヒット作になっています。
友だちとシナリオの違いについて盛り上がっていると、テレビにはイーロン・マスクの新しいサービスがニュースで紹介されています。翔さんがテレビの近くを通ったため、アレクサが瞬時に翔さんが好む動画に切り替えたのです。
イーロン・マスクが新しいコンピューティングの開発に本格的に着手したと、ニュースでは伝えています。脳波を活用したテクノロジーで、実現すれば人が考えたことが言葉に出さずに実行されると。考えるだけでテキストがドキュメント化されたり、タクシーを呼べたりするような未来です。
友だちとのやり取りを終えたえりかさんは、インスタグラムを観ています。あるモデルがアップした1枚の画像をタップしました。するとバッグが購入できるネットショップに飛び、えりかさんはフェイスブックの仮想通貨リブラを使って、そのバッグを購入しました。
フェイスブックはインスタグラムに限らず、他のSNS企業をその後も積極的に買収。リブラによる決済が普及したこともあり、ユーザーはさらに拡大し、10億人を突破するまでに成長しています。
ファッションに関心が高いえりかさんはアクセサリーをハンドメイドし、副業として販売しています。ネットショップをつくる際に利用したのが、ベイスというベンチャーです。
えりかさんのようなITにあまり強くない人でも、ネットショップ作成が30秒で、しかも無料でつくれるサービスを手がけているベンチャーです。アメリカで同様のサービスを行うショッピファイの成長に引っ張られるかたちで、日本でも急成長しています。
えりかさんは株式投資も行っています。といっても証券会社を訪れたり、パソコンのモニターの前に張りつき、株価の動向を気にするようなことはありません。使うのはスマホだけ。しかも、ゲーム感覚で投資を楽しんでいます。アメリカのベンチャー、ロビンフッドが開発したアプリならびにサービスのおかげです。ロビンフッドは証券業界ではこれまであり得なかった「取引手数料無料」を実現したことで、資産0の投資初心者にまで投資 文化を広げ、投資は誰もが行う当たり前の世界を作り上げました。
副業や投資で得たお金は、翔平くんが通う私立小学校の学費に充てられています。ロビンフッドはレコメンデーション機能が充実しており、最近は設立したばかりのベンチャーへの投資をすすめられ、3万円を投資。これから大化けすることを楽しみにしています。

新型コロナウイルスの影響で人々が外に出る機会が大幅に減ったこと。街中を走る車や電車の数も減ったことなどから、2025年の世界では、地球環境は大幅に改善していま す。大気や河川は浄化され、拡大を続けていたオゾンホールも拡大が減速する傾向にあり ます。
人類を苦しめ続けるウイルスが、一方で、地球をきれいにすることに貢献している。そんな皮肉な一面も、未来の世界では起きています。

「ニューヨーク金融機関×ハーバード大学院理学修士×元グーグル× ベンチャー投資家」による未来予測
いかがだったでしょう。これが仮定も多くありますが私が描く2025年の一つの未来予想図です。実際の実現は数十年のズレがあるかもですが本書は2025年の世界に大きな影響力を持つ世界最先端1社を分析することで、5年後を読み解く未来予測書です。実際、未来予測の中に1社すべて登場しています。
本書は2部構成になっています。第1部では、2025年がどうなっているかを描きます。1社がどのような思惑を持ち、動いているのか。そして、そこから生まれる社会のメガトレンド、5年後に実現する未来の姿を、より深く紹介しています。
第1部を受け第2部では、企業そしてビジネスパーソンがどうしたら5年後の世界を生き抜くことができるかを深く考察していきます。本書を読み進めれば、私がイメージした2025年の未来が夢物語でないことが、お分かりいただけることでしょう。

私は現在、シリコンバレーと東京にオフィスを構える、DNX Ventures というVC(ベンチャーキャピタル)でインダストリーパートナーをしています。同社は主に、アーリーステージのBOBベンチャーへの投資を手がけており、創業は2011年。以来、日米合計3社以上に対し、総額250億円以上の投資を実施してきました。
日本の大企業とシリコンバレーのベンチャーを結ぶ、いわゆるオープンイノベーション や協業支援なども行っており、こちらでの実績は100件以上になります。
母校である京都大学、ハーバード大学をはじめとして、早稲田大学ビジネススクールなどで研究員や特任准教授なども務めています。
専門は主に「フィンテック」「人工知能」ですが、私が同領域で活躍しているベンチャーキャピタリストと、大きく異なる点があります。投資領域以外にも、経済やテクノロジーの知見を持ち合わせていることです。
私のキャリアは京都大学でサイエンスを学んだことが出発点です。その後は東京大学大 学院で、工学だけでなく環境、経済学といった文系領域も学び、卒業後は銀行で金融とビ ジネスの知識を身につけます。
ニュージーランドへの留学を通じ環境問題の関心の高まりや、結核、エイズ、マラリア、 といった病を撲滅するために設立された世界的な国際機関へのインターンも経験しています。
当時の私は、世の中を変えられるのは民間企業ではなく、政府や国際的な機関だと考えていました。ところがそんな私の考えを変える事件が起きました。東日本大震災です。
津波の影響で、街にはがれきが散乱。通れない道が多く発生しました。その状況を改善 するためにいち早く動いたのが、グーグルです。グーグルマップと民間が連携することで、 通行可能な道が検索できるシステムを素早く構築し、住人に提供しました。
行方不明者の検索も、避難所などに情報を貼り付けて探すといったアナログ的な手法で あったのを、パソコンで簡便に行えるようにしました。
テクノロジーがあれば、民間企業でも社会を変えることができる。私は衝撃を受け、グーグルへの入社を決めます。
グーグルではインダストリーアナリストという肩書で、大企業の社長や役員向けにグー グルのみならず世界最先端のテクノロジーやサービスを紹介する仕事を担当しました。言 ってみれば、アメリカ発のテクノロジーを、日本の大企業に紹介、導入する、今で言うD Xの業務です。 |
ここでも衝撃を受けます。日本の大企業のトップや役員が、テクノロジー、特にデジタルに弱かったことです。言葉など、何となくは知っているのですが、実際にビジネスにどう活用できるのか。そのような具体的なビジョンが、ほとんどありませんでした。
グーグル時代には、ベンチャーの支援も行うようになりました。そうしてビジネスとテクノロジーの両方の知見を得た私は、それを活かして今のポジションにいます。テクノロジーのみに知見が偏るとどうしても専門的すぎてその良さをビジネスサイドに伝えられない。一方、ビジネスサイドの人からするとテクノロジーの深いところまでは理解するのが容易ではない。 |
私はその二者をつなぐエバンジェリスト(伝道師)として、イノベーションの種を少しでも多く実現させることを使命としています。

GAFAだけ見ているのは日本だけ

最初、編集者さんからこの本の話をいただいたときは、少しためらいがありました。私などが読者の皆さんに与えられるものなどあるのかと考えていたからです。
しかし、従来からもやもやとしていたことが実はありました。書店に多く並ぶアカデミ ア、エンジニア、ジャーナリスト、アナリストの方々が書く未来予測書を読むと、そこに は決定的に欠けていると感じる点があったからです。

「そのビジネスやテクノロジーは、本当に人々に浸透するか(儲かるか)?」

どんなに革新性が高い製品やサービスでも、儲からなければ世の中に広がることはありません。常にこの観点を持っているベンチャーキャピタリストとしては、表面的で目立つことが目的である分析による多くの未来予測書が読者の行動を翻弄してしまっているのではないかと懸念していました。
そのような想いがある中での出版の依頼でした。「読者がこれからの激動の世界を生き抜く指針になる本当の、未来予測を届けたいんです」。そんな編集者さんからの熱い想願が決め手となり、本書出版を決めました。
実際、テクノロジーの知識があると、未来の予測の芽の想像は大体つきます。業界を破壊するようなイノベーションは、テクノロジー界隈で起きやすいからです。そうして生まれたテックベンチャーは簡単にピボット(方向転換)し、業界を超える特徴も持ち合わせています。その結果、短期間で大きく成長していきます。
GAFAがまさにそうでした。ただシリコンバレーでは、GAFAに続くベンチャーが、今まさにこの瞬間も、次々と生まれ続けています。当然、GAFAはそのことを知っていますから、自分たちを脅かす可能性のあるベンチャーは、できるだけ小さいうちに買収するなどして、囲い込んでいます。
そうして取り入れた新しいテクノロジーで、新たなビジネスを展開、さらに巨大化していく。いわば、オセロの隅を常に押さえにいっているのです。そこには業界の壁もありません。
つまりGAFAと界隈のベンチャーの動きを見ていれば、特に、GAFAですら持っていない新たなテクノロジーを生み出している企業の動向を追うことで、これからのトレンド、未来の世界の動きを知ることができるのです。これが、世界の常識です。
ところが日本では、現在の時価総額や直近の業績に着目する傾向が強いと私は感じています。しかしいま出ている数字や評判は、過去のことでしかありません。過去に行ったことの結果としての今なのです。大切なのは、いかにこの先もスケールし続けるか。VC的 な観点で表現すれば、時価総額が10倍、20倍のヒットではなく、0倍を超えるようなホームランクラスの成長です。
本書で紹介している1社は、まさにホームラン級の成長をしている、してきた企業です。 社会、未来へのインパクトが強い企業とも言えます。
時代のトレンドに乗り遅れ、未来予測を間違えると、いかに大きな企業であっても淘汰されます。そしてその動きはすでにあり、本書で度々触れています。
現代と大きく様変わりするであろう2025年の未来で、企業やビジネスパーソンが生き残るためにはどうすればよいのか、その術も紹介しています。
5年先の2025年、さらにその先の未来において、企業もビジネスパーソンも生き残っていくための一助に本書がなれば幸いです。

山本康正 (著)
SBクリエイティブ (2020/11/6)、出典:出版社HP

目次

はじめに
5年後の未来はこの1社が決定づける –

通勤は電車の200%コスパのいいロボタクシー
出張先の宿はアップルホテル
AI先生、小学2年生に九九を教える
アレクサクッキングシェフご用達の大豆肉のステーキー
100万通りのシナリオがある『愛の不時着2」
「ニューヨーク金融機関×ハーバード大学院理学修士× 元グーグル×ベンチャー投資家」による未来予測
GAFAだけ見ているのは日本だけ

第1部
2025年はどうなっているか?

第1章
世界最先端1社の思惑と3つのメガトレンド
グーグル 検索後の世界から「検索前」の世界へ
アマゾン アレクサ君、屋外へ進出。ついに街全体を食いに来る
フェイスブック 2万km離れた人と目の前で会話ができる世界へ
アップル 視覚から聴覚、嗅覚へ。人間の五感すべてを占拠
ネットフリックス2億人以上の嗜好に合わせた映像を届ける
マイクロソフト スマートシティのOSの覇者になる
テスラ 東京・大阪間を時速1000kmのリニアでつなぐ?
インポッシブル・フーズ「ベジタリアンだって肉の食感がほしい!」を実現
ロビンフッド 証券業界初の「売買手数料0」で投資が当たり前の世界をつくる
クラウドストライク ~1億総テレワーク社会 のトリガーになる
ショッピファイ 0兆円ベンチャー、アマゾンと楽天を破壊する
BATHは世界にはあまり出られない
メガトレンド① 業種の壁崩壊とコングロマリット化の再来
メガトレンド② ハードでもソフトでもなく “体験” が軸になる
メガトレンド③ データを制するものが未来を制す

第2章
11社がつくるメガトレンド
業種の壁崩壊とコングロマリット化の再来
本業を決めない企業が勝つ
カード・金融会社が飲み込まれる
小売りなのにコロナで一人勝ち ウォルマートの秘密
激変する業種①:運輸――電車の2倍速く0%安いロボタクシーが鉄道を破壊
激変する業種②:映像―――ディズニーがビジネスの究極系に
激変する業種③:農業|東京の20階建てビルで高級野菜が育つ
激変する業種④:セキュリティー-コロナ後にさらにリモートワークを加速
激変する業種⑤:モビリティ―ロボタクシーがウーバーのライドシェア事業を破壊
激変する業種⑥:建設――アマゾン、スマートホームを狙う
激変する業種⑦:ヘルスケア―アップルウェルネスセンター誕生?
激変する業種⑧:物流――ドライバーがあなたの家の冷蔵庫まで荷物を届ける

第3章
11社がつくるメガトレンド②
ハードでもソフトでもなく体験が軸になる
利益0でもいい Apple Cardの衝撃
「売れない」は失敗ではなくなる
なぜスマホは2年契約なのか?
5年後、PCだけがメインのデバイスではなくなる
車は2カ月ごとに性能がよくなる
テスラが「広告費0・ディーラー0」でも売れる理由
ベジタリアンが実は持っている。わがまま
Zoom利用者、コロナ禍の2日で1億人増
スマートスピーカーは「声」すらかける必要がなくなる
スマートハウス・シティが当たり前に

第4章
11社がつくるメガトレンド3 4章
データを制するものが未来を制す
データは「情報のバランス」を取るもの
アップル S グーグルのデータ戦争
ハードは体験を届ける一つの手段でしかない
データの権利は誰が握るか?
旅館の女将が出す茶菓子が変わる
1分ごとに変化する航空券の値段
スマートウォッチで行動がバレる
100万車のデータに基づく「テスラ保険」
証券はレコメンデーションされる |

第2部
2025年を生き抜く処方箋
第1章
5年後に破壊される企業、台頭する企業
サブスクリプション導入は必須ではあるものの
サブスクリプション#リース
サブスクリプションが合わない業界
中間業者は淘汰される
b8ta シリコンバレー発・小売りを大転換するベンチャー
5年後、特に危険な8業界
資本があることはもう強みではない
大企業がベンチャーに食われないためには?

第2章
5年後、あなたの仕事はこう変わる
5年後、必須の5つのスキル
淘汰される業界にいる人はどうしたらいいか?
常に学び「タグ」を増やす
好きなことだけでも、社会のためだけでもいけない
ストラクチュアル・ホールになる
どんな人とつながりをつくるべきか

おわりに

山本康正 (著)
SBクリエイティブ (2020/11/6)、出典:出版社HP